2008年 01月 07日
珪藻土礼賛 |
1月14日より、神田の文房堂ギャラリーで「珪藻土礼賛」という展覧会を開催します。1月10日からその設営に入り、慌ただしい年明けとなりそうです。この展覧会は、陶芸家で造形作家の伊藤公象さんとのコラボレーションですが、以前、文房堂で「波動の結晶」という展覧会を行ったことがありました。そして、今回は「珪藻土」というあらたなテーマのなかで行われます。珪藻土は、いまでは、建築壁材として注目されているのですが、そのひとつの要因は「多孔性」という物質としての特徴にあります。つまり、珪藻類の堆積によって生まれた珪藻土は、その珪藻の殻がひじょうに微小であるため、珪藻土の内部にこのような多孔性空間が生まれたのです。この多孔性という特異な空間は、保温性や吸湿性に優れ、また、濾過する素材ともなっているとのこと。
今回の展覧会のために、昨年の暮れに、珪藻土を使った音の実験を僕がいる九州大学の研究室で行ってみました。院生の杉山くん、渡辺くん、それに学部生の高崎くんが協力してくれましたが、その実験の結果はほんとうに感動するほど素晴らしかったのです。
まず、焼成した珪藻土の塊を大きな水槽(といっても、これは凸レンズ状のアクリルのスクリーンなんですが)にはった水のなかに沈めてみました。そして、高崎くんの自作の水中マイク(ストローで防水したので、ストローマイクとよんでます)を珪藻土の塊に接触させて、珪藻土の無数の多孔空間にある空気が水中にはき出されるときの音を増幅してみました。その音は、虫や鳥が鳴いているような、また、なんらかの周期性をもった響きだったのです。さらに、驚いたのが、その持続時間でした。夜8時か9時ころから実験を始めたのですが、1-2時間はずっと音が続きましたが、さらに数時間も、微かではありますが、その響きは絶えることがなかったようです。
最終的な音の収録は、4つの水中マイクによって、ひとつの珪藻土の塊から音を録音しました。はじめは、4つのマイクから珪藻土のひとつの全体的な響きを録ることができると思ってましたが、それに反して、4つの全く異なる音が取り出されたのです。水中では音の伝播が空気中とは異なることをあらためて実感したのです。以下の文章は、展覧会のチラシに寄せて書いた僕のコメントです。
==========================
珪藻土の音響世界に分け入る
藤枝守
樹木のなかで吸い上げられる水の音。あるいは、海辺の砂のなかでゆっくりと移動する貝の音。このようなきわめて微小な(=micro)音は、われわれの知覚の領域を超えた存在だった。しかしながら、音のエネルギーを電気的に増幅する技術は、このような微小な音を聴きえる存在に転化していった。そして、微小な音のなかに、目でみることのできない世界を聴覚的につかみとっていったのである。
焼成した珪藻土の内部に織り込まれた無数な空洞。この複雑な珪藻土の内部の不可視の空間に、じつは、豊かな音響世界が内包されていたのである。このことに気づいたには、珪藻土の塊を水に沈めたときだった。その珪藻土の微小な空洞に水が染み込み、その内部の空気がはき出されることによって、微かな音が生まれる。まさに、「珪藻土の息づかい」の音だったのである。このような珪藻土がもつ微小な音をどのようにわれわれの耳に届けることができるのか。このプロセスそのものが、今回のサウンド・インスタレーションにつながった。
■詳細のご案内
by mamorufujieda
| 2008-01-07 00:32
| お知らせ