先月、旗揚げされた「九州遊会」の2回目が4月17日14時から始まります。今回のチューターは僕が担当。いきなりの起用で不安ですが、「響きの考古学」から引き出せるテーマから始めてみます。
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【第2回九州遊会】
■日時:2010年4月17日(土)14:00~
■テーマ:「響きの考古学」~つくられた耳を越えて
■チューター:藤枝 守氏(作曲家・九州大学大学院芸術工学研究院教授)
■九州遊会ホームページ:http://yukaiq.jimdo.com/
■場所:瓢箪座(福岡市早良区城西3-22-31松林ビル203号)
■電話:092-215-3910(中野由紀昌)
■mail:hyoutanza@fukuoka.email.ne.jp
※参加予定の方は、事前にメールまたは電話でご一報いただけると助かります。
※参加無料ですが、若干の資料代をいただく場合があります。
【第2回目九州遊会に寄せて】
3月20日に開催した九州遊会の第一回目は盛会のうちに終了しました。今月からは、九州遊会に響きをもたらすべく、共鳴してくださった藤枝守さんをチューターに、『響きの考古学』をシリーズで遊学します。著書『響きの考古学』(平凡社ライブラリー)をテキストに読み解きますので、参加の方は事前にご用意されることをおすすめします。当日も数部ほどお分けすることもできますが、数に限りがありますので、あらかじめご了承ください。(YUKIYO)
【チューターメッセージ】
われわれの周囲には、いろいろなジャンルの音楽が溢れています。このような多彩にみえる音楽をわれわれが自然に受け入れている背景には、ある音の基準の存在があります。この音の基準は、「平均律」と「標準ピッチ」という二つのファクターによってかたちづくられています。そして、この基準のうえで、絶対音感とよばれる奇異な能力が生みだされました。
このような「平均律」と「標準ピッチ」という音の基準は、西欧において音楽が近代化する過程で採用されたものです。そして、近代以降、西欧音楽が急速に世界中に伝播していくなかで、この基準が世界的な規模で現代人の耳(つまり、音の聴き方)を方向づけたといえるでしょう。さまざまなタイプの音楽を違和感なく受け入れることができるのも、この音の基準が隅々にまで行き渡った証拠だといえます。
しかしながら、この音の基準は、音楽における「グローバル・スタンダード」だといえます。このスタンダードによって、ピアノに代表されるほとんどのすべての西欧楽器が統一的に調律され、その結果、均質な響きが蔓延してしまいました。さらに、さまざまな民族楽器(たとえば、日本の箏などを含め)は、このスタンダードに合わせたかたちでの調律を余儀なく受け入れ、音楽上の文化的なアイデンティティが希薄になりつつあります。
現在、社会や経済に関わるさまざまな領域で近代化がもたらした「グローバル・スタンダード」の意味が問われています。音楽の領域も例外ではありません。 まさに「平均律」と「標準ピッチ」を相対化する視座が求められています。そのために、近代以前や非西欧において、音の基準としての「音律」という思考や音楽実践をもう一度検証する必要があります。そして、音律と音楽実践との相互性から生みだされた「響き」や「抑揚」がどのように人間の耳に作用していたのか、その過程に着目することが重要です。それは、言い換えれば、音の感性の所在を明らかにすることなのです。近代化がもたらした「つくられた耳」を越えようとする努力のなかに、これからの音楽の多様な姿がみえてくるでしょう。(藤枝 守)